最高裁判所第三小法廷 昭和47年(オ)746号 判決 1975年10月14日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人松隈忠の上告理由第一点について
所論の点に関し、本件建物の競売手続において最低競売価格を定めるための評価にあたり、訴外奥野恒治の仮登記の存在は考慮されていないとする原審の認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、是認することができる。論旨は、ひつきよう、原審の認定にそわない事実関係に基づき原判決を非難するものであつて、採用することができない。
同第二点について
第三者の売買予約に基づく所有権移転請求権保全の仮登記が存在する建物に対し、抵当権実行による競売手続が開始され、その競落人が競落代金を完済して右建物の所有権を取得したのちに、右仮登記権利者が売買予約の完結によりその仮登記に基づく本登記を経由したため、競落人が競落建物の所有権を喪失するに至つた場合、右売買予約が第三者の建物所有者に対する消費貸借上の債権担保の目的をもつて締結されたものであるときは、競落人は民法五六八条に従い、同法五六七条の類推適用により、抵当権設定者との間で当該建物の売買(競落)の解除権を取得するものと解するのが、相当である。そして、競落人が仮登記担保権者からする本登記手続請求訴訟において、仮登記担保権者に対し目的不動産の適正な評価額のうち同人の有する債権額を超過する部分から競落代金等自己の出捐額の支払と引換えにのみ承諾義務の履行をなす旨の主張をすることなく、右仮登記に基づく本登記手続がされたとしても、そのために右解除権の行使が許されなくなるものではない。
これを本件についてみると、原審の適法に確定した事実によれば、本件建物の仮登記担保権者である奥野が競落人である被上告人に対して提訴した本登記手続承諾請求訴訟において被上告人が右清算金の支払請求をすることなく敗訴し、その結果奥野の本登記がされたことにより、被上告人は本件建物の所有権を喪失したというのである。
してみると、被上告人は、民法五六八条に従い、同法五六七条の類推適用により本件建物の売買(競落)の解除権を取得するところ、被上告人が原審口頭弁論期日に右解除の意思表示をしたことは、原審の確定するところであるから、被上告人は、その原状回復として上告人に対し競落代金等自己の出捐額の支払請求権を有するものというべきである。したがつて、これと同旨の原審判断は相当であつて、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 関根小郷 裁判官 天野武一 裁判官 江里口清雄 裁判官 高辻正己)